ニュータウンサミット「明日のニュータウンの担い手は?」

ハードを中心としたニュータウン開発が終わり、人と人とのつながりの中で課題解決や新しい価値を創造していくニュータウン再生が始まっています。自立的・自主的に活動する市民エネルギーの集合体が、明日のニュータウンの担い手です。
千葉・港北・筑波・多摩の4大タウンにおいて、市民と行政がどのように連携して課題解決に向かっているのか、ご紹介しましょう。

•開催日時:5月17日(土)13:30~17:00
•開催場所:ベネッセコーポレーション 13階大ホール
•基調講演:高橋賢一氏(法政大学工学部 教授/元住都公団 参事役)
•パネルディスカッション:
  福富洋一氏(港北ニュータウン:わ創連都筑 事務局長)
  武藤 弘氏(千葉ニュータウン:「月刊千葉ニュータウン」代表)
  島袋典子氏(筑波研究学園都市:つくばインキュベーションラボ 代表取締役)
  炭谷晃男氏(多摩ニュータウン:多摩ニュータウン学会 事務局長)
 コーディネーター
  細野助博氏(中央大学総合政策部 教授/多摩ニュータウン学会 会長)

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【基調講演】
「明日のニュータウンのありようと、その担い手」法政大学工学部 高橋賢一氏(都市計画研究室)

1.ニュータウン開発が進められてきた時代を振り返る
 1955年から70年にかけて、東京圏人口は年間25万~40万人ずつ増加。毎年、都市をひとつ急いで創らなけばならない状況が15年間続いていた。良質な環境を備えた住宅を大量に供給し、スプロール市街地を未然に防止すること、高度な都市機能を備えた街を創り、30分圏内に複数の都市を結ぶ南多摩連合都市圏構想を実現化させること、これらがニュータウン開発理念だった。

2.ニュータウンの現状を考える
 ニュータウンの都市インフラは極めて高い水準にある。非被覆空間量(アスファルト等で覆っていない地面)の多さ、過密すぎない市街地空間、自然の緑を取り込んだ設計、電柱・ブロック塀をなくし街路樹を植えるなど、整理された美しい街づくりを目指した。生活の基本的共有財がこれだけ高いレベルで整っているのは、東京圏の広義ニュータウンでは20%程度である。
 しかし、一時期に一気に創った街ゆえ、単一世代が大量に入居して今日の少子高齢問題を抱えるようになった。丘陵地を開拓したため、高齢者にはつらい地形・街になっていることも課題である。
 故郷を異にする人々が集まり住んで30年。ようやく地域的特色を持った生活圏が醸成され始めている。多元的な生活文化を育み街としての成熟を見た先例が、江戸にある。徳川幕府が60年かけてインフラを整備していたからこそ、江戸の円熟な街ができた。ニュータウンは、その基盤が出来ている。

3.明日のニュータウンのありようと、その担い手
 20世紀の街づくりは画一的にせざるを得なかった。人口減の時代は、都市間交流人口を増やすことで街を活性化するしかない。男性が創った街は、元気な女性たちの街になった。これからは、男性も地域に回帰し根づく街にしてほしい。自治体は、自主的に動く市民をバックアップする存在。
 志を共有する人たち、すべての世代の人たちが街に根づいてこそ、真の「都市」と言える。江戸中期に「江戸っ子」が誕生・定着したように、2050年頃には「多摩っ子」が誕生・定着することを期待する。

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【パネルディスカッション】

●港北ニュータウン「わ創連都筑」事務局長 福富 洋一郎氏
 港北NTは横浜市都筑区がほぼ全域を占める発展途上タウン。片側3車線の道路など、都市インフラの水準は高く、自然環境にも恵まれている。川づくり・まちづくりなど市民活動団体が多く(50団体近い)、そのネットワーク団体として「わ創連都筑」(ひと・まち・輪創り連絡会)を創った。中高年のお父さんたちが、平日は会社人、週末は地域人として生き生きと活動している。NTと行政区がほぼ一致するため、自治体と市民まちづくり団体との連携がとりやすい。区のHPのコンテンツを市民が提供するなどの例もある。港北NTにも課題はいっぱいある。
公団が創ったグリーンベルト(緑道地帯)でまだつながっていない部分も、市民と区が連携してつなげようとか、地域通貨を活用しようとか、これからも問題解決に向けて皆がそれぞれの特技を持ち寄ってやっていきたい。

●千葉ニュータウン「月刊 千葉ニュータウン」代表 武藤 弘氏
 千葉NTは多摩NTとほぼ同じ頃スタートした人口19万人の街。都心から約30km、自然環境はいいが、街としての機能はまだ未成熟。神社やお寺のない人工都市で、地域コミュニティなどは希薄。NTの話題発掘、課題の研究・問題提言、NTとしての大きな方向性を市民とともに考える意図から、タウン誌を発行している。NPOや市民活動はあるが、まだ点の動きで、ネットワーク化されていない。

●筑波研究学園都市「つくばインキュベーションラボ」代表取締役 島袋 典子氏
 筑波研究学園都市は最初から職住近接の研究都市として創られた20万人程度の街。研究所ごと移転された。母体は6つの町村で、合併により現在は巨大なつくば市に。
 つくばインキュベーションラボは、地域のベンチャービジネス立ち上げ支援をする有限会社。起業の出資者を探し集めたり、出資者に魅力を感じてもらえるように事業計画立案を支援するなど。
NPOや行政にはいろんな支援機能があるが、「ある」だけではモノゴトは動かない。実践する主体者がいて初めて成り立つ。街がさびれていくのを見て「どうにかして欲しい」「行政が何とかすべき」と言うのではなく、自ら支える側になっていきたい。そのためにも、一定規模の人口を擁する街であることが重要。街に住むにも自ら主体的に住もうと思えるよう、街を売り込むパンフレットを作って広めるなど「共感」の街づくりに取り組んでいる。多摩センターの元気がないと皆さん言われるが、こんなに人がいっぱいいるではないか。要は街としてのアイデンティティを見出せるかどうかだ。

●多摩ニュータウン「多摩ニュータウン学会」事務局長 炭谷 晃男氏
 多摩NTは、既存市街地と区画整理(港北NT開発の手法)地区の人口は増加中。新住宅市街地開発法(千葉NT開発の手法)で創られた地区の人口が減少傾向にある。ベッドタウンから多面的な顔を持つ街に変化中。都心で働くだけでなく、週末やリタイア後は地域に根ざした活動をする層が増え始めている。
 多摩NTには、神社もお寺も残されており、里山活動もある。公団や行政がハードを創り、市民が連携してソフトウェアを育てている段階。
新旧住民たちも、子どもを媒介に学校を核として交流している。多摩市においては廃校の有効活用を研究する市民活動もある。未利用地活用も含めて、今後も積極的に行政に提案していきたい。

●コーディネーター 細野 助博氏によるまとめ
 人は愛着のない組織や地域からは離れていく。愛着があれば意見・文句を言う。文句を言った人も言われた人(あるいは地域)も、それによって進化していく。時間とともに成熟し進化する街にしていきたい。

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